ミッドナイト・スクール
「でっ、いててててて」
文彦の傷自体は大した事ないが、先ほどのゾンビ犬はもしかしたら狂犬病かも知れない。そうなら、処置は迅速に行わなければならない。
「大丈夫か文彦?」
弟を心配する辺りは種田もやはり兄だ。
「ぽ、僕は大丈夫。それより、逃げる手段を考えないと……他の先輩たちも出口を捜している筈だから合流して逃げようよ」
ハンカチで傷口をきつく縛ると、二人は保健室の方へと向かった。
「とりあえず、消毒だけでもやっておかなきゃな」
種田は保健室のドアを開けると、中の様子を確認し、特に異常がないと判断すると文彦を招き入れた。
「えっと薬、薬……」
種田は薬品棚の中から、役に立ちそうな薬を探している。
「……ん」
革張りのイスに腰掛けた文彦は、突然の熱っぽさの為に壁に頭を寄りかからせ、体重を預けて兄の処置を待っていた。
《身体が熱い……なんだか目の前がボーッとして来る》
……これが狂犬病の症状なのかどうかは、文彦には分からなかったが、不思議と悪い気分ではなかった。むしろとても心地よく、雲の上にでもいるかのような解放感があった。
『殺セ、殺セ』
「何、兄さん?」
文彦は声をかけらた気がして種田に尋ねた。
「何だよ、別に呼んでないぞ」
「そう……、気のせいか」
空耳だったのだと思い、文彦は目を閉じた。
……すると耳の奥に、また声が響いて来る。
『殺セ、殺スノダ』
不気味に頭に響く声は、種田には聞こえないらしく、テレパシーのように文彦にだけ聞こえた。
「どうしたんだ文彦?」
顔を覗き込み種目が尋ねる。
「ん……いや、なんでもないよ」
そう文彦は口に出していた。別に心配をかけまいとして口を閉ざした訳ではなく、なぜかこの声を独り占めしたいような、そんな気分だった。
また文彦の頭にテレパシーが響いて来る。
《兄ヲ殺スノダ、殺戮ノ限リヲ尽クシ、ソノ生命ヲ断つノダ》
とてつもない残虐なメッセージが頭に送られて来る。
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