ミッドナイト・スクール
……冴子は携帯の相手が誰なのかわかっていた。
 しかし、それは有り得ない事だった。
 冴子の持つ携帯のスピーカーから、今度は大きめな声が響いてくる。
「何言ってるのよ、私の声を忘れたの? 私よ……」
 そして、僅かな沈黙の後、はっきりと……。

「……悠子よ」

電話の向こうの相手は、間違いなくそう名乗った。そしてその声も紛れも無く本人のものだった。しかし、現実から考えて、そんな事がある答がない。悠子は今、信二たちの足元で静かに横たわっている……死体として。
「……悠子」
冴子の言葉に、全員が驚愕の表情をした。
「なっ、何を馬鹿な事を一言ってるんだ」
後藤は冴子から携帯を奪い取ると、耳に当てて怒鳴る。
「おい、お前だれだ!」
「だから悠子だってば」
「ゆうこ? どこのゆうこだ?」
「何言ってるのよゴッチー、本多悠子に決まってるじゃない」
後藤は凍りついた。間違いなく悠子本人からの電話だった。
「ゆ、悠子、お前、死んだはずじゃなかったのか?」
 震える声で尋ねる後藤。

「うん、私、死んだ」

電話の向こうの悠子は、質問に対して自分は死んだとはっきり答えた。
「みんなも死のうよ、三十年前の時と同じようにさあ! 楽しいからさ。死のう! 死のう、しのう、しのうよ、しのうヨ、シノウヨ、シノウヨシノウヨシノウヨ……」
「うわああああ!」
後藤は通話を切った。
最後の方は悠子の声ではなく、かん高い機械音になっていた。
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