《短編》聖なる夜に
「…何でよ…。
何で、そんなこと言うのよ?!」



泣いちゃいそうで。


でも、泣いちゃダメなんだ。


唇を噛み締めて、握り締めた拳も痛くて。


だけど心の方が痛すぎて、どうして良いのかなんて全然わかんなかった。



『…つーか、本気で言ってんの?』


「…本気に決まってんじゃん…!」


睨むエイジに、だけどあたしも睨み返す。



「エイジがいらないんなら、あたしだってこんなのいらないよ!!」


そう言って、勢い良くストラップを投げ捨てた。



『―――ッ!』


宙を舞ったストラップは、そのまま非常階段の一番上から落ちていく。


どこかの草むらにでも落ちたのだろうが、あたしはその姿を確認することもなかった。



『…何すんの?』


あたしに向き直り、エイジは低く聞いてくる。



「…あたしもエイジもいらないんだから、捨てたんだよ。」


『…何考えてんだよ?』


「―――ッ!」


瞬間、抑えられなくなった。


怒りとか、色んなもの全部が込み上げてきて、それを全部エイジにぶつける。



「何考えてるかわかんないのは、エイジの方じゃん!!
あたしばっか好きで、馬鹿みたいじゃん!!」


『―――ッ!』


瞬間、言ってしまったことを後悔した。


逃げるように背を向け、その場から走り去った。


いや、やっぱり“逃げた”って言った方が、正しいんだと思う。



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