黒の生け贄。〜悪魔は笑う〜

誰しもが悪魔。

引き出しの中にはクリアファイルが二冊重なるように置いてあった。



私は二冊のクリアファイルを机の上に置き、ページを捲ってみるが、捲る度に色んな絵が現れる。



そのすべてが殺害現場らしき場面や首を吊った自殺者の絵なのだ。



多分、これらの絵は号君が直接描いたのだろうと思った私は、自分の体温がじわじわと冷めていくのが解った。



力強く描いた絵は荒々しさが見えて不気味さをより引き立たせており、リアルを感じた。



まるで、現場でシャッターを押した写真を見ているような錯覚に私は襲われた。


号君はどのようにして、この絵を描いたのだろうか。号君の瞳にはこの世界はどのように見えていたのだろうか。



テレビを見れば殺人や自殺、強盗などが支配している。この世界は一人一人が欲望を持ち、自分の欲望のために容易く人を殺める、非現実的な現実を当たり前のように繰り返される。



私は、ふっと号君の言葉を思い出した。



「人間の最高の美学は『死』なんだよ、人は『死』から始まり『死』で終わるんだ。人間はその『死』のサイクルを繰り返す、『死』は大事な美学なんだよ」



人間は知らぬ間に『死』という恐怖に興味を持ち始め、人間は絶対存在の『死』のサイクルに表面上では苦しみ嘆くが裏では……………………………。



ひょっとしたら、正常ではないのは私達なのではないか…………………。



欲望を隠して生きる私は、爪を隠した悪魔ではないのかと。



号君が描いたこの数々の絵は、本当の人間像なのではないかと私は思った。




浩司さんと美千代さんに見つかるとまずいので、クリアファイルを自分の鞄の中に入れて持ち帰ることにした。



それから私はベットに潜り込み、矛盾な正義感と欲望抱きながら瞳を閉じた。
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