渇望
「常用の薬とかある?
何か欲しいなら買いに行くけど。」


ベッドの中で、首を横に振った。


瑠衣は少し不安げな顔をしながら、あたしの頭を撫でてくれる。



「俺さ、こんなお前を前にしても、何にも出来ねぇもんな。」


呟くように、彼は言う。



「あの時もさ、俺、邪魔だったから刺されたのかもしれねぇけど。」


決して広くはない部屋に、物悲しさの帳が下りる。


また胃の痛みを思い起こされ、体を丸めた。



「なぁ、死ぬなよ、百合。」


母親が熱を出した時の子供って、こんな感じなのかもしれない。



「女は痛いのには慣れてんだから、こんなもんで死んでたら堪んないよ。」


半分は強がりで、体を起こした。


けれども煙草を吸う気にさえなれず、未だ頭もくらくらとする。



「アンタを産んだのは間違いだった、とか親が言うの。
こんな風に育つってわかってたら産まなかったのに、ってさ。」


どうして吐き出してしまったのかはわからない。


それでも瑠衣は、黙って聞いていた。



「親にそんなの言われる度に、今日みたいに胃がキリキリしてきて。
誰も産めとか頼んでないし、って感じだけどね。」


自嘲気味に言ったのに、彼はあたしの言葉を奪うように唇で塞ぐ。


意味のないキスだった。


瑠衣はあたしを救う気もないくせに、どうして生半可な優しさで縛るのか。


まぁ結局は、突き離せなかったあたしが言える台詞ではないけれど。

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