渇望
第三章-理由-

捨てた故郷

気付けばもう、年末だ。


あたしも瑠衣も何ひとつ変わりはないけれど、でも互いの右手の小指には、同じものが輝いている。


指輪はお揃いだった。



「ねぇ、特番だらけなのどうにかしてよ。
モノマネとか何が面白いのかわかんないんだけど。」


「じゃあ観なきゃ良いだろ。」


今日もこの男は、寒いから、という意わけのわからない理由であたしの家にやってきた。


指輪の意味なんて、未だに知らない。


と、いうか、それが当然のようにあたし達は、その話題に触れることはない。


つくづく変な関係だ。



「つーか、これって何?」


瑠衣はいぶかしげに我が家のゴミ箱を覗く。


一瞥し、あぁ、とあたしはため息を混じらせた。



「貰ったけど、いらないから捨てたの。」


クリスマスにお客が、カルティエの時計だとかシャネルのピアスだとかをくれた。


けれどもあたしは、中身を確認することもなく、ゴミ箱に投げ捨てたのだ。



「勿体ねぇなぁ。」


「貰ったもんだし、あたしの自由にして良いじゃん。」


もしもそこに気持ちが込められているのなら、尚のこと、捨てるに越したことはない。


瑠衣はあたしを後ろから抱き締めた。


右手と右手が絡まると、互いの小指の指輪が触れ合う。



「じゃあ、俺のを捨てない理由は?」

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