渇望
聞かなければ良かったと、今更思った。


ぽつりと落ちた呟きが沈黙に消え、笑うことすら出来ないままだ。


あたしはきっと、その人を越えられない。



「どんな人?」


「汚れてなくて、無色透明な流れる水って感じ。」


優しい目をして思い出すように言った瑠衣が、遠く感じる。


きっとあたしとは正反対で、だからこれ以上聞くべきではないはずなのに。



「一番大切だったし、アイツ以外何もいらなかった。」


彼の言葉が突き刺さる。


きっと今も、瑠衣はその人の影を探しているんだ。



「そんなに大切にしてたのに、何で別れちゃったの?」


「別れたっつーか、付き合ってねぇし。」


ただの片想いってやつ。


そう付け加え、彼は困ったように笑う。


その横顔はどこかジローを思わせ、どうしてそんな風に相手のことを想えるのか、怖くなった。


瑠衣が、体を繋いでもいない人を、そこまで愛していたという事実。


いくら同じ指輪をしていたところで、それはあたし達にとって、何の繋がりにもならないのかもしれない。



「愛してたし、多分愛されてた。」


だからあの頃は幸せだったのだと、瑠衣は言う。


この人にでさえあった“あたたかな頃”が、あたしにはない。


知れば知るだけ自分の存在がわからなくなって、だからただ、悲しかった。

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