渇望

明けない夜

今もあたしは、余程のことがない限りは瑠衣の部屋に行き、そのほとんどの時間を一緒に過ごしている。


吐き出すように、拘束するように抱かれることも増えたろう。


行為を終えて疲れた子供のように意識を手放し眠りに堕ちる瑠衣を見た時、やっとあたしは安堵出来るのだ。


この世界は生き苦しいね、瑠衣。


彼はきっと、眠っている時だけが、唯一現実から目を逸らしていられるのだろう。


あたしを抱き締めていることで、消え入りそうな自分自身を必死で保っているようにも見える。


瑠衣と一緒にいるということ。


例えばそれは、捨て猫を放っておくことが出来ない、というのと似ているのかもしれない。


このまま見過ごせば死んでしまいそうで、だからあたしのはやっぱり、安っぽい心配でしかないのだろうけど。







「百合りーん!
めっちゃ美味しいオムライスの店発見してんけど、一緒に行かへん?」


コイツは本当に病気なのだろうかと、いつも思う。


それでも、もしかしたら何か感じ取っているのだろうか、こうやって誘われることが増えた気がする。


仕事に固執しているわけではない。


金を稼ぐ理由も、体を売る理由もないくせに、でもそれしか知らないあたしは、結局は痛みを伴うことでしか毎日を繰り返せなかった。


真綾はきっと、そんなあたしを見抜いていたのかもしれない。



「てか、もう並ぶようなとこは勘弁だからね。」


「わーかってるって!
今度はめーっちゃ穴場やねん!」


そんな言葉に引っ張られ、仕方がなくもあたしは、ランチに出た。


気付けば春の陽気に照らされることも増え、桜も徐々に散っているのだと、ニュースで聞いた。

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