渇望
守るものがあれば人は強くなれるというけれど、じゃあ失うものさえないというのは弱さに繋がるのだろうか。


ふたりは憎しみ合うことでしか一緒にいられない、悲しい兄弟。


アキトはある意味では瑠衣のために生きてるのだろうし、瑠衣はそんなアキトを繋いでおきたかったのではないだろうか。


歪んでしまったのは、血を分けているからなのか、この街だからか。







戻ったのは、瑠衣の部屋。


彼はきっとあたしの体からあの独特の甘さが香っているのには気付いただろうに、でも優しく笑って口付けを添えてくれた。



「ごめんね。」


「ん?」


「聞いちゃったんだ、アキトから。」


そう言った時、瑠衣は一瞬驚いて見せた後、瞳を伏せた。



「それで?」


その続きの言葉なんて当然用意しているはずもなかったのに。


なのにあたしは告げてしまったから、結果としてまた瑠衣が苦しむことになると、知らずにいたよね。



「過去を積み重ねて今があるって言うけどさ。
俺は後ろを向きながらじゃなきゃ前に進めないんだ。」


だから瑠衣は、いつまで経っても光の射す方に辿り着けないのかもしれない。


悲しいけれどこの人は、そうやってしか生きられないのだと思う。



「でも瑠衣はさ、それを決してあたしに背負わせようとはしないよね。」


だからアンタはやっぱ、優しい人なんだよ。


そう言った時、彼は救いを求めるような表情で顔を歪めた。


強さと弱さは、きっといつも隣り合わせに存在しているものなのだろう。

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