渇望
あたしはどこにも行かないのに、それでも瑠衣は空気の通り道さえ奪うように、肌を合わせたがる。


それはやっぱりまるで、孤独の隙間を埋めたがっているかのよう。


今も彼の体からは、時折外国製のボディーソープの香りがしていて、だからあのアミという女との関係を断ち切ることはないらしい。


わかっているんだ。


瑠衣にとって、あたしも、アキトも、アミという女も、どれかひとつでも欠ければ全てが綻ぶんだということ。


あの女に何を求めているのかは知らないけれど。



「百合。」


呟かれた名前は、ただ静かに宙を舞って消え落ちた。


どうしてこんなに近いのに、あたし達は重なることがないのだろう。


溶け合ってしまえばきっと楽なのだろうに、それでも互いに、いつも違う道ばかり選んでしまうんだ。







ねぇ、あなたはどうしようもなくあたしの存在を望む日がありましたか?


例え一瞬でも良い、他の誰でもなく、あたしじゃなきゃダメだと思ったことはありましたか?


共に過ごした日々は、嘘なんかじゃなかったと思いたい。


互いに消えない傷をつけてやりたいと思いながら、でもこれ以上苦しめることが辛かった。


所有欲という鎖で縛っておきたいと望みながら、でも相手の人生をも巻き込むことが怖かった。


優しく触れていたのは、壊れてしまいそうだったから。


なのに強く抱くのは、消えてなくなりそうだったから。


指輪の意味は、それでも傍にいてほしいということなのか。

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