渇望
「てか、話してても平行線だし、もう帰るわ。」


「…帰るって、またあの街に戻るのか?」


「別にどこだって良いじゃん。
あそこがダメならまた他のとこ行くだけだし、お金ならアンタよりずっと稼いでるから何も困らないし。」


結局、地元でさえ居心地の悪さは拭えないんだ。


それは、悲しいけれど、きっとあの街に馴染んでいる自分がいるからだろう。



「んじゃあね。」


立ち上がると、「百合!」とお兄ちゃんは声を上げた。


一瞬周りにいた人たちが驚くほど大きなそれに、何なのかと顔を向けた瞬間。



「今日、電話くれて嬉しかった!
またいつでも良いから、こうやってゆっくり話しをしよう!」


「てか、うるさいって。」


「何を言われたってちゃんと待ってるよ!
百合が大切だって言ったの、嘘じゃないから!」


あの街にはない真っ直ぐさ。


だから無意識のうちに無視を決め込む形でサングラスを取り出し、彼に背を向けた。


例えばそれが口説き文句ならば心が揺れ動くのかもしれないけれど、でもあたしにはそれさえ眩しすぎるのだ。


マックを出てから駅前でタクシーに乗り、あたしはひとつの住所を告げた。


走り出した車は中心部を外れ、景色は幾分緑が多くなっていく。


それから20分ほど揺られていると、ある民家の前でタクシーは停車した。



「運転手さん、ちょっと待っててもらえます?」


「良いですよ。」


急いで降りて玄関に向かう途中、庭でばったり会ってしまい、



「おばあちゃん!」

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