渇望
どうしても、ジュンのおばあちゃんに会いたくなったのだ。


地元に戻った理由は、きっと緑が見たいからでも、お兄ちゃんに会いたいからでもなく、おばあちゃんが好きだったから。



「あら、百合ちゃんじゃない!」


「突然来てごめんなさい。」


「良いのよ、ひとりなの?
それより嬉しいわ、あがってちょうだいよ。」


本当はそうしてしまいたかった。


けれどここにいたら、もうあの街には戻れなくなってしまいそうだから。



「タクシー待たせてるし、渡したいものあっただけなんで。」


「…渡したいもの?」


「これ、好きって聞いて。」


手渡したのは、色々と買い込んだ紙袋。


漬け物だとか、ちょっと高級な緑茶の葉だとか、そういうものが入れてある。


紙袋とあたしを交互に見たまま目を丸くしたおばあちゃんは、



「優しい子だねぇ、百合ちゃんは。」


そう言って、手ぬぐいで目頭を押さえていた。



「じゃあ、もう行きます。」


「百合ちゃん、ありがとうね。
また必ず来てちょうだいね?」


「はい。」


どうしてこうも、おばあちゃんの顔を見ているだけで泣き出しそうになってしまうのか。


一礼し、きびすを返して再びタクシーに乗り込んだ。


ジュンが何もかも忘れ、無垢でいられる場所。


だから彼はきっと、いつも優しさを忘れない人であり続けられるのだと思う。

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