渇望
『なぁ、俺の用もう終わったんだけど、お前まだ時間掛かりそう?』


「あ、あたしももう大丈夫!」


一瞬忘れてた自分がいて、だから焦って返すと、



『事務所ってどの辺?』


瑠衣に場所を教えると、偶然にも近くにいるらしく、じゃあすぐ行くわ、と言った彼は電話を切った。


詩音さんは相手が男であることに気付いたようで、「カレシ?」と聞きながら笑っている。



「そんなんじゃないですってば!」


「でも大切な人なんでしょ?」


そうだ、大切なんだ。


頷いたあたしを見た彼女は、満足そうな顔をする。



「羨ましいな、そういう存在。」


「…詩音さんはそういう人、いないんですか?」


ジローのことをどう思っているのだろう。


でもさすがに聞くに聞けなくて、首を横に振って見せた彼女は肩をすくめた。



「過去に置き忘れてきちゃったのかもね。」


誰にでも、過去はある。


それは詩音さんだって例外ではなく、みな小さな頃は、きっと普通の女の子であったのだろう。


けれど、ここに集まる理由もまた、それぞれにある。



「じゃあ、そろそろ帰ろうか。」

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