渇望
「俺さ、もうずっと瑠衣とは会ってないんだ。」


ふと、漏らすように彼は言った。



「正直、よくわかんなくてさ。」


「……え?」


「瑠衣を許せない気持ちはずっと一緒だけどさ、そういうので生きるのにも疲れたのかもね。」


許してしまえば、今までの人生の意味を見失うということに繋がるのかもしれない。


けれどアキトだって、その狭間で揺れているのだろう。


百合、と彼はあたしを呼んだ。



「これからどうするの?
当分ここにいたいなら、別に俺は構わないけど。」


「そんなにお世話にはなれないって。」


どうせ、ずっとこのままというわけにはいかないだろうし。


ただ、それでも、瑠衣は今、詩音さんといるのだろうかという疑念は、嫌になるほど付き纏う。



「そろそろ自分ち帰るよ。」


「でも、大丈夫?」


「大丈夫だって。」


「じゃあ、送るよ。」


「良いよ、歩いて帰りたい気分だから。」


ご馳走様、と言い、席を立った。


アキトは引き留めることはしなかったので、あたしもそのまま彼の部屋を後にした。


もうすっかり明け方だった。

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