渇望
意識が引き戻された時、瞬間に腹部を襲った強烈な痛みと、そして体が震えるまでの寒さ。


壁も、床も、布団でさえも真っ白で、まだ鮮明ではない視界の真ん中にあるのは、白熱球のある天井。


誰かがあたしの手を握っている。



「百合、起きた?」


どうしてジュンがここにいるのだろう。


思考だけが当てもなく彷徨うように漂っていて、けれどまともに何かを考えるにはあまりにも気だるくて堪らない。


いや、それより前に、ここはどこ?



「大丈夫、ここは病院だから。」


病院?


てか、何が大丈夫だというのだろう。


聞きたいことも、言いたいことも山ほどあるはずなのに、上手く口を動かすまでに至らない。


これじゃあまるで、体が自分のものじゃないみたいだ。



「俺、百合と別れてからも、まだコンビニにいたんだ。
したら向こうの方から、女同士が言い争うような声が聞こえてきてさ。」


あぁ、じゃああの時助けてくれたのは、ジュンだったのか。


瑠衣じゃなかったということにあからさまにショックを受けているあたしは、やっぱり最低なのだろうけど。


空笑いだけを浮かべていると、彼は一度息を吐き、真剣な瞳であたしを見る。



「ごめんな、助けられなかった。」

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