渇望
一体何を言っているのだろう。


けれどジュンがあまりにも悲しそうな瞳を伏せるから、あたしは何を考えるでもなく、それを見つめることしか出来ない。


さっきからずっと、頭の中で何かが引っ掛かったままだ。



「ねぇ、どうしたの?」


声が震えた。


ジュンは悔しそうな顔を上げ、



「子供、死んだって。」


死ん、だ?


その言葉の意味はひどく簡単なはずなのに、なのに理解すら出来ない。


けれど体はずっと正直で、先ほどからずっと痛むばかりの腹部と、そして血の気を失ったような寒さ。



「俺が駆け付けた時には、百合いっぱい血が出てて。」


弾かれたように持ち上げた手の平には、擦り傷なんかひとつもない。


じゃああの瞬間に見たのは、まさか…



「救急車呼んで、すぐ病院運ばれて、手術してさ。」



ちょっと待ってよ。



「ねぇ、手術って何?
あたしの赤ちゃん、医者が殺したっての?」


「落ち着けよ、百合!
違うだろ、お前は流産したんだよ!」


たしなめるようにジュンは言うけれど、



「馬鹿なこと言わないでよ、そんなはずないでしょ!」

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