渇望
そして連れられた場所は、“オーシャン”というホストクラブ。


元締めはクリスタルのバックにいる組と同じらしいが、あたしにとってはどうでも良いことだ。


この街の図式になんか興味はないし、遊ぶ分には関係のない話だから。


店に入り、席へと通された。



「百合が来るとか思わなかった!」


失礼なことを言いながら近づいてきたのは、あたしの指名したジュン。


ヘラヘラ系の馬鹿男だ。


現在この店のナンバーツーで、お金が好きだと言いながら、ナンバーワンにはなりたくないと、何故か胸を張っている。


口も悪いし最悪なところだらけだが、多分この街で、あたしが一番心を開いているヤツだと思う。


ジュンと意気投合したのは、単に同郷だったから、というだけの理由だが。


極細客のあたしは、色を掛けられるでもなく、営業されることすらない。


なので、ここで生きる同志というか、共に同じ街の出身で、友達に近い関係。



「香織、待ってたよ。」


彼女の隣に腰を降ろしたのは、流星。


この店の不動のナンバーワンだけど、香織がこの男にいくら貢いでいるのかなんて、聞くのも馬鹿らしい。


だってふたりの関係がろくなもんではないことを、あたしは知っていたから。


コイツの所為で、赤ラークが嫌いになった。



「とりあえず、ゴールド持ってきて!」


香織の顔は輝いていた。


ホストクラブなんて客同士の見栄の張り合いばかりで、そんなことをしたって何にもならないはずなのに。


なのに何故、人は一瞬でも満たされたと錯覚するのだろうか。


所詮はお金で繋げるものなんて、儚いばかりだというのに。

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