渇望
続いて入った雑貨屋でも、彼はあたしにカップを買ってくれた。


こんな日々に何かを期待しているわけでもないけれど、それでもふたりで選んだことに意味があったのかもしれない。


瑠衣のことは嫌いじゃない。


と、いうよりは、多分あたしは彼のことが好きなのだろうとも思う。


一通り見て回り、そこを出る頃には夕方になっていた。



「瑠衣!」


並んで歩いていると、彼を呼ぶ声に足が止まる。


振り返ってみれば、ちゃらちゃらしたような男が近付いてきた。



「何だよ、デートか?」


そう言いながら、男は笑う。


気持ちの悪い薄笑いだと思っていると、瑠衣はまぁね、なんて適当に受け流していた。



「そういやお前、緒方さんがまたみんなで飲もう、って言ってたぜ?」


緒方さん、って?


そう言葉にしようとしたが、でもすんでで止めた。


まさかあの人と同一人物なはずはないし、何より同じ名字くらい多い。


だから気にしないようにと努めていると、瑠衣と男は少し話をし、その場で別れた。


あたし達はまた、歩き出す。


瑠衣が何をしている人なのかなんて未だに知らないけれど、でもあたしは、聞くことを恐れていたのかもしれない。


先ほどの軽薄そうな男が一般人でないことくらい、一目でわかるから。



「なぁ、腹減らね?」

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