幕末Drug。番外編・其の弐−沖田総司−





三日後、俺は再び初老の男性と対面した。


『…それで、君の気持ちを聞きに来たのだが。』


『ハイ、お断りさせて頂きます。』


近藤さんと初老の男性が、俺の言葉に固まった。

『…え、今何と?』

『お断りさせて頂くと申し上げました。』

『……。』

『此れが、私の決意の証です。どうぞお持ち下さい。』


俺は達磨の絵が描かれた紙を男性へと差し出した。


『ほお…ふはははは!これは面白い。』


達磨の絵を手にし、愉しげに笑う男性。

『…君の決意は固い様だな。この話は無かった事にしてくれ。』

そう言いながら立ち上がり、男性は道場の入口へと歩いて行った。


『倒れても倒れても、何度でも立ち上がる達磨の様な不屈の精神。…其れがあれば、どんな苦境に立たされても乗り越えていけるだろう。…君はもっと強くなるのだな、沖田君。』


一度だけ立ち止まると、男性は穏やかな表情で俺を見つめた。


『…はい。もっと強くなって、大切な人をこの手で守ります。』

『…そうか。君の活躍を、楽しみにしているよ。』


優しい眼差しを向けた後、男性は去って行った。


『…本当に、良かったのか?』

近藤さんが珍しく眉を寄せ、俺の顔を覗き込んだ。


『はい。…此処じゃないと、学べない事なんです。』


『こんな小さい道場で、か?』


『大きさは関係ありませんよ。…此処には、尊敬出来る剣の師匠と…本物の’鬼’が居ます。こんな凄い道場、日本中探したって他に無いですよ。』


近藤さんは訳が分からないといった表情で、俺を見つめた。





『近藤さん。…俺は、此処に居られて幸せです。』





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