まほろば【古代編】
それほど時を置かずして、泉の周りの空間が一瞬揺らいだ。

それを合図にトヨの姿が現れた。

久しぶりに見たトヨの姿に、思わず頬が緩む。

トヨはこちらの気配に気がついたのか、パッと顔を輝かせてこちらに向かって走ってきた。

「アキ!」

それに応えるように、こちらも声をかける。

「トヨ!」

トヨは勢いあまってぶつかるような形でオレの胸に飛び込んできた。

「アキ、会いたかった……」

トヨの体は走ってきたにも関わらず、とても冷たかった。

だから、オレはただその体を温めるように優しく抱きしめ続けた。

トヨの息が鎮まるのを静かに待った。
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