Escape ~殺人犯と私~
振る。



あの時、私は見れなかったけども、少年は彼氏を連続で3、4発殴った音しか聞こえなかった。



もし、あの短時間で素早くナイフで刺して引き抜いていたのだとしたら、少年の手や体には返り血がかかったはず。



少年のあの色白の顔や手に血の跡がついていたならば、私がいくら混乱していても気付けたはず。


だから、ナイフの血は彼氏のものじゃない。



不安が消しきれない私は、バステレビのスイッチを入れた。



その瞬間



まるで、風船が弾けたような音が鼓膜を打ち付け、私は思わず跳ね上がる程に驚いた。



浴室の静まり返った空間に対し、テレビの音量が高過ぎたのだ。



私はすぐさま音量を下げまくり、破裂しそうな心臓を落ち着かせる。



お婆さんは耳も遠かったらしく、テレビの音量も高くしていたらしい。



「ビックリしたぁ……」


とことん感情の籠もった呟きを放ち、再び浴槽で足を伸ばしてくつろぎの体勢をとる。



ちょうどCM画面だったためチャンネルを変えると、今朝の殺人事件のニュースが飛び込んできた。
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