Escape ~殺人犯と私~
相変わらず犯人は見つかっていないらしく

犯行に使われた凶器も見つかっていないとアナウンサーが語る。



去年に起きた無差別殺人事件に衝撃を受けた後

年末辺まで様々な殺人事件が多発していて、世間も殺人事件には抵抗がつき始めていた。



そして、年始になって凶悪事件も無くなり始めた頃にこの、妊婦殺人事件が起こった。



私は、この事件の容疑者の心境が自分と重なってしまうのが嫌で、チャンネルを変えたが

また同じニュースが飛び込んできたため、テレビの電源を切った。



思い出したくない過去に背を向けると

次は、さっき彼氏につけられた手首の爪痕がヒリヒリと痛み出す。



頭の中に過去と現在の悪夢が巡り、私は大きなため息をつきながら、両手に顔を伏せて目をつぶる。



脳裏に浮かぶのは、私をトイレで暴力しようとした彼氏の姿。



そして、嫌らしいヤジウマオヤジの視線は、思い出す度に虫ずが走る。



「ほんと嫌だ……。」



消えない記憶に、唇が切れそうな程に噛み締めながら、彼氏の爪痕の傷口に自分の爪を立てる。



心の傷跡を消したい余り、無意識に爪で傷跡をかきむしる。



塞がりかけていた傷跡からは鮮血が溢れ出し

浴槽の中に真っ赤な血が零れ落ちると、じわりとにじみながら消えていった。


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