Escape ~殺人犯と私~

そんな事が伝わってきた。



私は座ったまま茫然と


少年の姿を眺めていた。


私に掴みかかった時

おふくろ。って言ってから



母親に恨みがあるという事は分かった。



普段は冷静な少年が

こんな血相変えて殺気立つ程の何をされたのかは知らないけど。



ただ

あんな力が強くて、凄く怖い人だったのに



心は

こんなに弱いんだって思った。




過呼吸に苦しんでいる少年は、私の視線に気付いて腕で顔を隠す。



「見るな……」



体を震わせながら、低い声を放った。



少年の命令に

私は従わなかった。




少年の姿が、DVの後遺症に苦しむ私の姿と被って見えていたから

その弱々しさに、恐怖を感じなかった。



私は、彼氏に受けたDVのフラッシュバックでパニック状態になった時

誰かに抱き締めて欲しかったけど



私を抱き締めてくれる人なんて、誰も居なかった。



そんな私を拉致して更に苦しめたんだから

少年も苦しめばいいんだ。




パニックやフラバで、死んだりなんかしないから


私は、苦しむ少年の姿を見続けた。



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