Escape ~殺人犯と私~
…6
私は、先に降りた学生を抜かして



走って逃げた。





薄く降り積もった雪の中を走り抜けた。




胸が締め付けられるように苦しいのは、走ってるせいだ……





代々木駅に向かう人混みに紛れて、電車に乗り込んだ私は



溢れそうになる涙をこらえた。




少年は私を追って来なかった。




私が逃げるのを知って、わざとあの場から動かなかった。



私を見る事すらしなかった。




少年の事ばかりが頭を巡り

私は感情が溢れる胸をおさえた。




少年から、代々木から離れた私は



心を落ち着かせるために適当な駅で満員電車を降りた。


その時


ふと、少年の見慣れた制服が横目に映り



私は反射的に振り返った。



追ってきた……




そう思ったのも束の間




相手は少年と同じ制服を着ただけの

見知らぬ男子だった。




続々と、少年と同じ高校の生徒達が通り過ぎ

改札階に続く階段を降りて行くのがみえる。




学校名は都立N高校。



少年の徒手帳を見つけた時に丸暗記したから忘れる事はない。



ここは少年の学校よりも、少年の家から最寄りの駅だった。





その事に気付いた私は、ただ何となく




生徒達の後に続いて、彼の通う学校へとむかっていた。




魔が差した行動だった。





私の先を歩く2人組の男子生徒達の横で

のろのろと運転していた1台の車が停まった。




停車した車の窓から、スーツ姿の男性が顔を出し

男子生徒に声をかけた。



生徒は迷惑そうな表情をしたので、知り合いではなさそう。




私は、歩幅を狭めてゆっくりと歩きながら会話の声を聞いた。




内容は、渋谷区妊婦殺人事件の事。




容疑者の少年の話を聞き出そうとして、1万円札をちらつかせていた。




学生達はエリートだからか、1万円じゃ目がくらまない様子で

記者を無視して学校へと急いだ。

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