新月の夜
おかしくないのに。まあ知らないなら仕方ないか。あさみちゃん妊娠してますから心配でしょう。和也君の大切な母親ですから。」
「……。」
「一緒に通勤するということはナオキは覚悟決めたという事。」


遅れてナオキが廊下を通る。指輪をつけたナオキは、

「おはよう義人。」
「おはようナオキ。ここで名前言うの初めてだね。」

ナオキは笑って、

「不思議な感じ。でも、一番慣れてるししっくりくる。」
「決意決めた?」
「あぁ。…それより義人、本当、だてメガネ似合うね。」
「…ばれてたか。一人しかいないと思ってた。」
「絶倫男の妻?」
「…絶倫は余計だ。未亜は美しい。今も変わらない。ナオキの決意も見れたし、優しく見守ってるよ。健闘を祈る。」

゛GOOD LUCK!゛

ハイタッチ。

こそこそ、

「社長が高瀬さんと話してる。しかも意味ありげ。呼び合ってる。」

麻友美の兄は義人に尋ねる。

「ナオキはナオキらしくいけばいい。さすがだ。小さい頃から見てきたけれど。ナオキらしくなってる。決意は固い。」


集合の放送が流れる。

「坂井さん、そろそろ始まるみたいです。行きましょう。」


会議室。続々と集まる経理課と総合課の人達。前にはあさみと、そっと手を繋いで座っている和也が。あさみは、

「ダメよ、和也…見られてる。」
「大丈夫だよ、母さん。」
「…でもこれは。」
「母さんを守るから。」
「…こんなのお父様の意志に反する。」
「母さんは嬉しくないの?」
「…嬉しいよ。だって大切な息子だもの。」

和也はあさみのお腹を優しくつついて、

「お腹の子供のお兄さんだよ。」
「……。」
「お祖父様の事を全て聞くの?」
「…ナオキさんのお父様よ。」
「お祖父様のせいで母さんは苦しんで。」
「私はどうなってもいいわ。」
「父さんも苦しんでいるとしたら愛する人が苦しむ姿を見たいの?」
「……。」
「父さんの話聞こうよ。」

見つめる。


ナオキが現れる。

「急な呼び出しですみません。大事な話がある。…気付いた人もいると思うが、左手の薬指に指輪をつけて来た。24年前の指輪。24年前、私は一人の女性と結婚しました。そして彼女との間に子供をもうけました。その子がそ
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