新月の夜
鳴る。

「え…。」
絢美からだ。

「え…。」
「出なさい。」

祐貴は出る。絢美は、

「今日は楽しかった。ありがとう。」
「…いえ、僕も楽しくて嬉しかったです。」
「へへへ、キスしちゃったね。」
「…はい。」
「固いよ。絢美って呼んで?ねぇ。」
「絢美…。」
「へへ。嬉しい。キスして?」
「…え?」

ちゅっ。

受話器から聞こえる音。

「…恥ずかしいです。」
「お願い?」
「……。」

祐貴は顔が赤くなりつつも、ちゅっとキスする。

「きやっ、キスしてくれた。」
「……。」
「話したかったの。声を聞きたくて。声を聞くだけで幸せ。不思議。大好きなの。積極的になっちゃう。人と付き合うなんて初めてで。欲しいの。あなたが欲しいの。」
「……。」
「話したい時電話していい?」
「いいですよ。」
「ただ声を聞きたくて、つまらない内容でいい?」
「いいですよ。」


次の日、仕事。

「何かいい雰囲気でしたね。」

麻友美はあつきに言う。

「ふふふ、まさかあのような展開になるとは。」
「何?」

悠太は聞く。

「いやね、あのコが弟くんだとは思いませんでした。」
「会ったの?麻友の弟と。」
「はい。私の意思ではないですよ。うちの姫の意思。」
「絢ちゃんのですか?」

麻友美は、

「それ以上言ったらダメです。」

悠太は、

「絢ちゃんと弟くんに何かあったね。麻友、言え。」
「…知らないよ何言われても。」

麻友美は悠太に耳打ち。

「二人がキスしちゃった。」
「えっ…!?」
「しかも絢ちゃんが積極的。キスしたくなったなんて言える?」
「…まさかの展開だ。」
「祐貴あがりっぱなしでもう、かわいいの…。」
「相変わらず麻友は弟好きだね。」
「うん☆」
「…ヤキモチ妬けないなぁ…。」

あつきは悠太の肩を叩き、

「複雑?私も複雑です。それなのに兄さんは落ち着いて後押ししてる。妹バカの兄さんがだ。」

麻友美は、

「お兄さんもそれなりの覚悟持ってると思うよ。過去に縛られて絢ちゃんまで巻き込みたくないなんて。」
「かも知れませんね。万里さんの事…私が万里さんが妹のように可愛がっていた史奈と一緒になりましたから。
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