治癒術師さんに取り憑いた魔導師さん


「俺の優しさは彼女にしかない。なんなら、今すぐにでもあなたの頭を踏みつぶすが、時間がもったいない。早く彼女を起こさなければ……忘れられてしまうかもしれないからね」



ガラスケースに彼が触れる。いや、薄い膜だったか、触った部分から溶けるように半透明の膜は消えた。


膝をつき、姫を讃える騎士のように彼は彼女を見る。


手を伸ばし、抱きしめた。冷たくなった体を温めようとして。



「俺には、君だけでいい」



彼の存在表明、でも彼は知っていた。



ユリウスは俺だけではない、と。


ユリウスには、俺以外にも必要なものがあると。


悲しい事実、でもいい。


「俺はこうして、君を独占できる」


動かない体を触りに触る。誰からも咎められやしない、自分だけが許される行為だと。



< 359 / 411 >

この作品をシェア

pagetop