神への挑戦
その言葉を聞いたエースは、反論する事はなく、むしろ少し嬉しそうな表情をしていた。

その後三人は、ホテルの従業員に頼んだドリンクが手元に届くと、和やかムードで話が進んでいた時間が、突然終わりを迎えた。坂井さんは表情を真剣なものに移したのだ。

その雰囲気を察したジャックとエースも表情を仕事モードに移した。

「さっそぐですが、仕事の話に入ってもよろしいですか?」

その言葉を聞いたエースとジャックは無言で頷いた。

「今回調べてもらいたい事は、日本各地で起こっている、未成年による麻薬の密売についてです。それは小宮さんから伺っていますよね?」

「俺は聞いていないんだが…」

ここでジャックが口を挟んできた。確かにジャックは、エースから何も事情を聞く事なく、このホテルに足を運んだので、何も知らないのだ。

「そうですか…では初めから説明したいと思います。最近、日本各地で麻薬の密売が活発になってきているんです。麻薬が問題視されたのは、最近の話ではないのですが、今回の騒動は今までの麻薬密売のルートとは根本的に違う様なのです」

坂井さんはここまで話を進めると、一枚の書類を手元に置いた。その書類は、新聞で掲載されている情報を抜粋した様な書類で、全てが未成年の麻薬関連の情報だった。

「これを見ていただければ解ると思いますが、未成年の麻薬密売で検挙されている数が異常なのです。こういったケースの事件は、捕まっている人間の約10倍以上は未だに捕まっていないと考えます…ある程度事情は察していただけましたか?」

この記事を見る限り、ここ一ヶ月に麻薬の密売で検挙された未成年の書類だ。数はざっと見て、100人ぐらい…この10倍の未成年が未だに麻薬の密売に手を染めていると考えると、どう考えても異常な数だった。

「なるほど…確かにこれは異常な数だな。ところで昔と最近じゃどれだけ数に開きがあるか、解るか?」

ジャックが書類に目を通しながら、坂井さんに質問を投げかけていた。

「もちろん調べてあります。少しお待ち下さい…」

坂井さんが手元のバックの中を探っていると、黙ったまま状況を見ているエースが、ジャックに視線を送ると、静かに含み笑いをした。その笑顔は、蔑んだ類の笑顔ではなく、何かに喜んでいる様な印象を受ける笑顔だ。
< 5 / 335 >

この作品をシェア

pagetop