からっぽな街
けれども、私は、二年も一緒に住んでいる目の前の男にすら、思っていることを吐き出したり、誘われたことを断ることがでいる。 気を使っているわけではない。顔色を、伺っているわけではない。ただ、断ると、テツヤが傷つくと思って、なんていうか、うまく、言えない…。
「嫌だったら、いいよ。俺、一人で行くから。」
「え?行くの?」
まさか、そう来るとは思わなかった。気持ちが揺らぐ。
「だって、山中さん行くし。山中さん、学生のときから参加してるらしくてさ、すげー楽しいらしいのよ。山中さんのキャンプの友達って、おもしろいやつらばっかりだっつってて、会ってみてーんだ。子どもと一緒に山ん中で遊んだりして、すげー楽しいんだって。俺も、楽しみなんだよ。それに、ほら、俺、子ども好きだしさ、行ってくるよ。」
「えええ。」
「なんだよ。」
ぐじゅぐじゅとしながら、答える。
「じゃあ、行く。」
あぁ。もう、面倒くさい。山中、ふざけんな。テツヤを、子どもたちのキャンプに連れて行かないでよ。絶対、人気出るに決まってるじゃん。 
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