隣の先輩
「じゃ、行ってくるから」
 そう笑顔で言ったのは先輩だった。


 先輩は裕樹と出て行く。


 そんな二人は時折、言葉を交わし、笑顔になっていた。


 先輩って誰にでも優しいんだ。最初は私だけに優しかったらいいと思っていた。でも先輩はそうじゃなかったんだろう。


 私を最初に道案内してくれたように、誰にでも優しいんだろう。今は、そういうのっていいなって素直に思った。



 私は二人が見えなくなるのを待って、エレベーターに乗り込む。



 そして、「閉」のボタンを押し、家に帰ることにした。


裕樹が帰ってきたのはそれから一時間くらい後。


 結構遠いお店に行っていたんだろう。白いビニール袋とスケッチブックを抱え、満足そうな笑みを浮かべている。


 帰ってきた裕樹の私を見た第一声。



「真由はもう高校までは一人で行けるんだ?」

「裕樹」


 私は弟の腕をつかもうとしたが、するっと逃げられた。


 先輩が話をしたんだろう。私一人が迷子になったわけでもないのに。


 まあ、いいんだけどさ。


 最近、からかわれっぱなしで慣れてきてしまった。慣れというものは怖いとつくづく思う。











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