隣の先輩
 そのとき、先輩が少し懐かしそうに笑っていた気がした。


 その理由が知りたかったけど、そんなことを聞けるわけもなかった。


「帰ろうか」


 歩き出した先輩の後を追うようにしてついていく。


 先輩の手には本屋の袋が握られていた。


 買い物をした帰りだったのかもしれない。


 先輩の足がふと止まり、私を見る。


 私の荷物を先輩がさっと取り上げてしまった。


「持つよ。どうせ同じところに帰るんだし」


 同じマンションに住んでいるからという意味で言われた言葉に必要以上に嬉しくなり、彼の後を追うことにした。


「あの子さ」


 夕焼の中で先輩はふと声を漏らした。

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