隣の先輩
 ベランダからなら身を乗り出せば覗くことができる。


 だから、なんとなく不思議に思った。


「どうして、私がここにいるって分かったんですか?」


 すぐには聞こえてこないと思った返事は意外とあっさり聞こえてきた。


「五月に、一緒に見た空と同じ空だったから、お前も見ている気がしたんだ。

呼びかけて誰もいなかったら、それでもいいかなって思ったから。どうせ誰も聞いてないだろうし」


 そう言った先輩の顔は見えなかった。


 でも、その優しい声を聞いていると、私の好きな笑顔を浮かべているんだって思った。


 その言葉に、また目頭が熱くなってきた。今日は感傷的になりすぎているのかもしれない。


「綺麗な空だな」

「そうですね」


 できるだけ今の乱れた気持ちを気づかれないように言葉を紡ぐ。


 見上げた空は、少し紫色を帯びていた。


 私はまた、視界が霞むのを感じながら、唇を噛む。


 やっぱり夕焼けって温かいけど、切ない。


 その空は人を好きな心みたいで、それでいて先輩みたいだって思った。
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