隣の先輩
 扉が開くと、先輩がボタンを押し、私をチラッと見た。


 先に出ていいと言っているんだろう。


 そんないつもなら、ドキドキしてしまう先輩の行動が苦しかった。

 私はエレベーターの外に出ると、頭を下げ、通路を走る。そして、鞄から鍵を取り出し、家の玄関を開ける。


 私が家の中に入る直前には、先輩が近くまで接近していたのに気づいていた。


 でも、顔を合わせずに、家の中に飛び込んでいた。そして、すぐに鍵を閉める。


 そして、自分の部屋に直行していた。


 途中、母親が私を呼ぶ声が聞こえたけど、そんなもの、気にしていられない。


 部屋の中に入ると、鍵を閉め、その場に崩れ落ちる。


 同時に頬を熱いものが伝っていくのが分かった。


 何をやっているんだろう。先輩が悪いわけでもないのに、勝手に避けている。


 この前まで、一緒にいる時間が楽しかったのが嘘みたいだった。


 先輩の存在を近くで感じるだけで、苦しくてたまらない。


 その気持ちが私に向かないのは分かっていたから。


 でも、そのために誰かを利用することなんかできなかった。


 誰かを利用すると、今以上に自分を許せなくなってしまうから。


 私は膝を抱くと、声を押し殺して泣いていた。



 それからは私が先輩を避けていたからか、先輩が私を避けていたからか先輩に会うことはほとんどなくなっていた。
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