隣の先輩
 隣にいる咲に声をかけると、私は先輩の傍らを抜け、先に行く。


 そうしてしまったのは、同じ空間にいるだけでも苦しかったから。


 逃げていても仕方ないのに。


 そう思っていても、先輩に話しかける勇気がでなかった。


 私の足は非常口に向かっていた。


 冬場に非常口にいようなんて物好きはいないから、一人でいたいときは唯一、一人になれる場所だった。



 背後で扉の開く音がし、驚いて振り返ると、背後には森谷君が立っていた。


 私はほっと胸を撫で下ろす。


「先輩と話すだけでも話せばよかったのに」


 そう森谷君は少し困ったような笑顔で言う。


 彼はあれからいろいろ話を聞いてくれていた。


 愛理や咲に先輩とのことを言い出せなかったから、

クラスメイトではそのことで唯一話ができる存在だったのかもしれない。


「それはちょっと無理みたい。もう少し時間があれば変わってくるとは思うけど」


 私にとっての初恋は色んな始めてが多くて、戸惑っていた。


 苦しいけど、幸せなことも多い始めてだった。
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