隣の先輩
 幸い受け取り時刻は過ぎていたので、今から帰って、もう少しごろんとしようかな、と思ったとき、何かが頬に触れる。



 雨、だ。




 私は慌ててお店の中に入る。


 雨はそれを待っていたように強さを増していた。


 ほっと胸を撫で下ろすと、ケーキのことを店員に告げる。


 そのケーキが手元に届くまでの時間時折、外を見る。


 だが、最初は頬に触れるだけだった雨はいつの間にか激しさを増し、視界を霞ませるほどになっていた。



 私はケーキを受け取り、店の中から窓の外を見る。


 窓ガラスに激しく打ち付ける雨を見ていると、外に出ようという気は起こらない。


 だが、高い鐘の音が響くと別のお客が傘を片手にお店の中に入ってくる。


 それを見ていると、ここで雨宿りをしようとも思えなかった。


 私は裕樹に電話をすることにした。


 裕樹は手元に携帯を置いていたのか、すぐに電話に出ていた。


「雨が降って帰れないから、迎えに来てほしいんだけど」



「いいよ。分かった」


 裕樹はあっさりと私の頼みを聞き入れていた。
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