隣の先輩


 その日、星が瞬く頃合、私は窓を開け、ベランダに出た。


「先輩?」


「何?」


 その声は少し先から聞こえる。


 私はベランダの手すりにもたれかかると、隣の家を見る。


 そこには先輩の姿があった。


「別に用事はなかったんですけど」


 先輩と待ち合わせていたわけじゃない。



 でも、先輩はたまにこうやって空を見ていることがあったから今日もこうして見ているんじゃないかって思った。


 先輩は仕方ないなと言いたそうに笑っていた。


「先輩は空を見るのが好きですね」


「結構好きかも。じいちゃんの家はもっと空が見えるんだ」


「そうなんですね」


 そう言った先輩の目はすごく輝いていた。


 その瞳は未来を見ているんだと分かった。


 先輩がやりたいのは天文関係のことだって、少し前に教えてもらった。


 それは宮脇先輩も同じで、そのためには志望している大学に通いたくてずっと勉強をしてきた。


 先輩は後ろを振り返ったり、何かに悩んだりしないんだろうか。悩まないということはないとは思う。そういう人はいない気がするから。でも、それをやっぱり顔に出すことはしない人だった。


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