隣の先輩
 私は結局、愛理と一緒に先輩の教室に行くことになった。


 校舎の中は休みの日のように驚くほど閑散としていた。


 時折、三年生らしい人の姿を見ることはあったが、知っている人もいれば知らない人もいた。


 それでも階段をあがると、人の存在が少なくなる。


 いつも通っている学校とはどこか違っていて、本当にこの中に先輩がいるんだってことが嘘みたいに、しんと静まり返っている。


 私たちの教室のあるフロアに行くと、三年の教室に電気がついていることに気づいた。


 愛理は教室の前に行くと、あっさりと扉を開ける。


 そこには依田先輩、西原先輩、宮脇先輩の姿があった。


 机の上に誰かのか分からないが花束が置いてある。


「やっと来たか」


 そう言ったのは依田先輩。


 依田先輩はいつものように笑顔で、西原先輩はちょっと疲れたような顔をしている。



 卒業式にはボタンをとられるとか言うけど、二人は全くそんなことはなくいつもの姿のまま。


 高校三年のときにあれだけ人を振っていたから、今さらボタンだけくださいと言う人もいないのかもしれない。


 私は教室内を見渡していた。三年の教室ってだけで、何か違う特別な感じがしてきてしまう。


「私の席はあそこで、稜と依田君の席はここだよ」


 そう言ったのは宮脇先輩だった。宮脇先輩が指した先輩の席は窓際から一列挟んだ列の二番目。


 依田先輩の席はその前だった。今、二人が座っている席だった。



 そのとき、宮脇先輩と愛理が目を合わせるのに気づく。二人は何か含みのある笑みを浮かべていた。

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