隣の先輩
「あそこか」


 道を三分の二ほど進んだときに、先輩がそう言葉をもらす。


「分かりました?」


「この先で会ったんだよな。お前に」


 私が迷子になって、先輩が声をかけてくれた。


 角を曲がると足を止める。


 マンションやお店などが並んでいる生活観を感じる町並み。


 ほとんどの人が通過点としか利用しないこの場所で、私たちは出会った。


「でも、道も分からないで買い物に行くとか無謀すぎ」


 あのときのことを思い出したのか、先輩はそう言うと笑い出す。


 からかわれて、少し恥ずかしかったけど、先輩の手をきゅっと握った。


「でも、あのとき先輩に会えたのはいい思い出ですよ」


 迷子にならなかったら、今先輩とこうして一緒にいられなかったかもしれない。


 だから、私たちの関係はここから始まったと言えると思う。


 あれから家に帰ったときに、先輩が隣に住んでいる人だって知った。


 学校が始まって、学校のクラスも隣だった。


 先輩を好きになった。


 色んなことがあって、いっぱい笑って、泣いて、たくさんの気持ちを味わった。


 これからどれほどの思い出が作られたとしても、「始まり」の場所は特別であり続けると思う。


「夏休みはいっぱい遊びに行きましょうね」


 私はそう先輩に笑顔で言う。


「お前の成績次第だけどな」
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