隣の先輩
 でも、その先にあるのは、見たこともない同じ学校の生徒の姿。


 あのとき桜の向こうにいた先輩の姿は今はどこにもなかった。


 あのときとは確実に違う時間が流れているんだ。


 そんな当たり前のことを今更ながらに感じる。


 私は軽く唇を噛む。


 そのとき私の目の前に桜の花びらが舞い降りる。私は思わず手を差し伸べ、それを受け止めていた。


 桜の花は私の手の上で横たわっていた。


「一年前ね」


 いつの間にか咲が私の隣にいた。


 愛理は森谷君と何か話をしていた。


「真由に話しかけたのってすごく勇気いったの。自分から誰かに話しかけるなんて滅多になかったから」


「そうなの? 普通に話しかけているように見えたけど」


 でも、咲は人見知りが激しいからあり得ないことじゃないと思う。


 西原先輩や依田先輩に対しても最初はそんな感じだったから。


 彼女が初対面で自分から誰かに話しかけていたのって見たことなかった。


「初めて教室で真由を見たときに、真由と友達になりたいなって思ったんだ。そういう勘みたいなのが働いて。最初はそっぽ向かれたらどうしようって思っていた」


「そんなことないよ。私も咲を一目見たときから友達になりたいなって思っていたんだから。でも、自分からは話しかけられなかったから」


「勇気を出して話しかけてみてよかった」


 彼女は屈託なく笑う。


 そんな笑顔を浮かべられるとすごく嬉しくなってくる。


 一年間いろんなことがあった。


 辛いこともあったけど、幸い哀しい記憶にならずには済んだ。


 時間がどんなに流れても、ずっと笑顔でいられたらいいな。


 私はそう考えると、表情をほころばせていた。
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