キョウアイ―狂愛―
明かりに照らされた怯える表情に、男はハッと息を飲んだ。
一族の末端も末端、屋敷に住まわせてもらっているだけの、何の位もない男ではあるが、クレアの噂は聞いていた。
すぐさま気づいたが、なおも不躾に、主の囲っているという、噂の女を品定めするように見続けた。
その容姿は確かに美しい……
(だが、幼すぎて俺の好みではないな)
―――しかし、
男の舌は上唇をなぞった。
(別の意味で、そそる……)
「………逃げたいんだろう?」
戸惑うクレアに男は声をかけた。
「俺が町外れまで送ってやってもいい。道には詳しい」
思ってもみない申し出。
怪しいとは思わないではないが、クレアに迷っている暇はなかった。
男に促されるまま馬に乗り、裏門をこっそり抜けると尋ねてみた。
「何故、親切に逃がしてくれるの?」
「サイファ様の非情なやり口が気に入らないだけさ」
男のとってつけた言い訳に、そういうこともあるのか…とクレアは納得した。