他校の君。【完】
俯いて寝たフリをしている間にふと思い出したのは、一臣君を意識し始めたきっかけ。
『これ、落としただろ?』
中学三年生の時、電車に乗って座席に座った時に一臣君に声をかけられた。
『…え?』
落とした、と言う言葉に一瞬頭が追い付かず、反射的に視線だけを彼の手元に向けた。
あたしの手とは違う、ちょっと骨張った彼の手の中にあったのは定期。
『え?あれ?』
あたしが落としたの?
まだ頭が追い付かないあたしに一臣君はクスリと笑って、
『改札を通った後、鞄に直そうとしてたみたいだけど、定期がポロっとな?』
たまたま俺が後ろを歩いてたから気付けただけなんだけど。
と、教えてくれた。
『そ、そうなんですか。ありがとうございます』
定期を受け取ってお礼を言ったあたしに首を振ってから座席に座った彼。
改めて、拾ってくれた人をこっそりと見ると、
「………!」
(あんな格好イイ人とあたしは今話してたの?)
彼は驚くくらい格好イイ人だった。
それが一臣君を意識し始めるようになったきっかけ。