My fair Lady～マイフェアレディ～
彼は。そっと、壁に手を当てていた。五分程たっただろうか。ウィンッと小さな機械音が短く聞こえた。

そこで彼は壁から手を離した。そして次にその壁をグッと前に押した。
ほんの少し押したかな程度で彼が手を離すとその扉シュッと勢いよくスライドして横に消えた。でもまだ壁が目の前にあった。

そして、俺の耳に変な呻き声が聞こえた。
だが、呻き声かどうかわからないくらいに小さなものだった。

彼は、構わずまた扉を押した。すると今度はその扉はクルリと回り出した。
回転ドアのようになっていたのだ。

開いた瞬間に呻き声のようなものがより明確に聞こえた。


『ぅー……ぅー……』


という声だった。
明確と言ってもこれが何の音かわからないが確かに何かが発しているとわかる程度だ。
彼は口の端をグッと吊り上げてその中に入っていった。

扉も彼に合わせるように閉まる。瞬間にスライドもシュッと出てきて。完全に物音一つしなくなった。

俺は彼が出て来るまで待とうとしたが、彼は一度も出てこなかった。

俺はいつしか、待ちくたびれてそのまま眠ってしまった。

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