悲愴と憎悪の人喰い屋敷
予兆
確か、奥の部屋だったよな。

トントンッ

「……はい」

小さく二回ノックをすると、数秒遅れて三浦の声が扉の先から聞こえる。

「ちょっと頼みたい事があるんだけど、良いか?」

「北川先輩ですか?」

駆けて来る足音がして目前の扉が開く。
すぐに用件を伝えようとしたが、三浦が苦笑した顔で俺を見ていたので首を傾げる。

「どうした?具合でも悪い…!?」

部屋の方に目を向けた時、何故か無数の視線を感じた。
な、何だ?
三浦だけしか居ないよな?
俺の選んだ部屋とは随分違う。
長い間、この場所に居たら気が滅入りそうだ。
霊感が強いと言っていた三浦の事だ、その視線を強く感じているのだろう。
霊的なものだとしたら、視線の主人達が見えているのかもしれない。
それを察して俺は三浦の手を引き、部屋の外へと連れ出して今の恐怖を忘れようと明るい口調で用件を言う。

「実は管理人代理という奴が、びしょ濡れで部屋を訪れてな。…というか木を上って窓から進入して来たんだが…って、そんな事より三浦ぐらいの体型だからさ、着替えを貸してくれないか?」

三浦は俺の言動に少し元気を取り戻したのか微かに笑う。

「そうなんですか。それじゃ、少し待ってて…」

「そんな話、信じられません!」

突然、隣の部屋が開いて高野さんが現れた。
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