さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
「カマラ」
水を飲もうとせず、ミゲルは小さく呟いた。
水をたたえた杯を持つカマラの手を、痛いくらいに握りしめる。
そのあまりの力に骨がきしみ、カマラは顔をしかめた。
「レイラなら心配要らないわ。
ジマールの娘の代わりであれば、とりあえず命の危険はない。
ジマールは娘を溺愛しているから、きっと手放したくなかったのでしょう。
まさか王に逆らうつもりなどではないはずよ。
ソリャン王子の妃は確か7人もいるはずだし、
別の危険も可能性は低いと思うわ」
別の危険というのは、もちろん女としての危険という意味だが、
冷静なカマラの分析にも、ミゲルは落ち着きを取り戻すことはない。
それどころか、かえって、呼吸が荒くなった。
「違う。違うんだ。大変なことになった。
あの子は今、もっとも危険な場所にいる」