さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
何か言葉を発そうとしているようにも見える。
しかし、ミゲルの唇は陸に上がった魚のようにぱくぱくと動くのみで、
どんな音も作り出すことはなかった。
「父さん?」
もう一度カマラが呼びかけると、ミゲルと視線が交じわる。
その瞳は死人のように生気がなく、焦点を合わせる事を忘れてしまったかに見える。
「父さん。お水を飲みましょう」
カマラはミゲルの脇に自分の体を滑り込ませると、
そのままゆっくりと牢のはしにある椅子に移動した。
広い牢へと移動した後に、寝台と机、それに椅子が用意された。
小さいが、一つだけ明り取りの窓もある。
先ほどの兵士の話で、自分たちの置かれている立場がはっきりとわかった。
いつまで待っても処刑されない理由も。
ミゲルの体を椅子に腰掛けさせると、
カマラは水差しから水を汲んでミゲルの口元へと持ってきた。