花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 きっぱりと言い切る。怒りの滲む声。顔は笑っているが空気が凍りつくほどの冷気が小さな体から発散されて……普段とのギャップの大きさに、まだ小声で言いあいをしていた綾人と千歳も思わず動きを止めた。
「怒ってる?」
「うん。ありゃそーとー怒ってるな」
「もちろん……理事長にだよな」
「多分……」
 ひそひそと互いに確認しながら、綾人と千歳も離れる。もしかしたらこんな場面で揉めている自分達に怒っているのかとほんの僅かな可能性を考えて。
「んじゃ、行きますかね~」
「そうだな」
 うずくまっていた体勢から立ち上がった綾人の台詞に千歳も同意する。
「さ、行こ」
 千早を促し、小梅もくるりと体の向きをかえる。ふわりと踊るスカートの裾を見ながら、
「……いいのか?」
 千早が呟く。
「わたしは……」
 千早の声に三人が同時に振り返った。
「いてもいいに決まってる」
 揃った声が千早の声を遮る。
 大きく見開かれた千早の目がみるみるうちに潤んでいく。それに気が付いた千歳は大きく息を吐き、仕方なく指令をだした。
「綾人。行け。今回は許可する」
「マジで? りょうか~い」
 すぐにそれを理解した綾人が、嬉々としてした表情で千早のところまで駆け足で戻る。そして辿りつくと同時にさっと身を屈め、つぎの瞬間には千早を抱き上げていた。
「え? わ……っ」
 驚く千早を抱えたまま綾人が走り出し、あっという間に小梅と千歳が歩くのに追いついたが、千早は地面にはおろしてもらえず。
「泣きやむの待ってる暇はないからな。さっさと行ってさっさとけりつける」
「王子様の胸で思う存分泣いていいからね~」

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