花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 そう言ってさっさと歩きつづける千歳の後を、自称王子に抱えられたまま移動する。
「ちょっと汗臭いかもですけどね」
 並んで歩く小梅がクスクスと笑いながら抱えられた千早を見上げている。
 その、花のような笑みが……滲む。
 こればかりは不可抗力だ。
 涙は止まらない。止める事など千早には出来ない。
「……っ」
 耐え切れずに、嗚咽がもれた。
 千歳の言葉が。
 綾人の腕のぬくもりが。
 小梅の笑顔が。

 全てが、優しく、暖かく、柔らかい――

 千早は目を閉じ、前を行く千歳の足音に耳を澄ませ、体に伝わる綾人の揺れに身を任せ、時々鼻をくすぐる甘い小梅の髪の香りを感じながら、自分の頬を伝う熱い感触を確かめる。 

 もう、不安はない。
 大丈夫。大丈夫だ。
 此処に居てもいい。
 わたしはここに居る。

 わたしは今、ここで……確かに生きている――



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