花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

「女の子の体に気安く触らないで下さいっ」
「いや……そんなスケベ心ではないよ。だって、女の子って言うけど、ゴーレムだし……そう、人間じゃないんだしさ。私はただ自分の研究成果を確認しようと……」
 必死で言い訳をする理事長。けれどそれは失言だった。
「実験成果だなんて……そんな言い方しないでくださいっ。千早さんにはちゃんと心もあるんですよ。笑いもするし泣きもする……とても、とても傷ついてるのにっ」
「あああっ。痛いっ。ごめん、うっかりしていたっ。なんだ……ほら、あれだ。言葉のあやとかゆうやつで決して悪気は……」
「悪気が無かったで何でも許されるわけないでしょう? お祖父様が常々言ってらしたことを忘れたのですか? どんなことをしても、決して人の心を傷つける真似はするなとあれだけおっしゃられていたのに……っ」
 更に髪を捻り上げられ引き攣れる頭皮の痛みに耐え切れず、理事長が泣きを入れる。
「ちゃんと責任とってくださいっ」
「わかった! わかってるよっ……なんとかするっ。ちゃんと……悪いようにならないようにするからっ……だから放してっ」
 涙目で懇願する理事長。その顔をふん、と鼻息と共に冷たく一瞥して、ようやく小梅は掴んでいた白髪の束から手を放した。同時に足もどけ、理事長から後退して距離を取る。 
 あまりの小梅の剣幕に身動きも出来なかった千歳達も、力を抜き、ほっと息を漏らした。
 ショッキングな映像を見てしまった。
 ふだん、おっとりとしてふわふわとした小梅のイメージとはあまりにも違いすぎる、恐ろしさすら覚える姿。
 けれど、それも小梅本来の優しさから来るものなのだということは良くわかる。小梅は千早のために怒っているのだ。千早を思うがゆえにあれほど怒っているのだ。千歳にはわかる。

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