花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

「ね。大丈夫ですから、千早さん。ちゃんとこれから困らないでいいようにパパがしてくれますから」
 理事長に背を向けて千早の前まで来て、いつもの柔らかい笑顔を向ける小梅に小さく頷き返す千早の目尻にまた、涙が光っている。千早にも、そんな小梅の優しさは伝わっているのだろう。
「で? ゴーレムなんてなんで作ろうとしたんですか? しかもなんで俺の姿なんですか」
 未だ壁際で荒く息を吐く理事長に向かい千歳は声を掛けた。まだ、聞きたいことは残っている。
「や……それなんだけどね。最初は私の分身を作る予定だったんだよ。本当だよ。ほら、私はこの通り忙しい身だしね。やりたい研究は山ほどあるし、小梅とだってもっと一緒にいたいと思っているんだよ。だけど、体一つじゃ足りないから……わたしそっくりの代理がいて仕事を手伝ってくれれば解決するんじゃないかと……だから人形を作るときに私の血液を混ぜたし、文字を書く血も自分のものを使ったし……」
 そう言って、理事長は左手の人差し指を千歳に見せるように前につきだしてみせた。その指先にはバンソウコウが巻かれている。
「じゃあ、なんで……」
 眉根を寄せて千早のほうへ一瞬視線を走らせ、再度、理事長の方へ疑いの眼差しを向ける。理事長そっくりになるはずだったゴーレムは何故か千歳の姿をしているのだ。

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