花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
◆予兆


   +++

「……ちゃん。ちーちゃん……きて……起きて……」
 優しく肩を揺さぶられる。
 ああ、ごめん、小梅。うっかり眠ってた。
「……起きて……」
 うん。すぐ起きる。ちょっと待ってて。
 瞼を開けなくても小梅がちょっと困ったような顔で笑っているのがわかる。
 小さな丸顔。
 細い顎に対して程よく膨らんだ頬っぺたはいつもほんのりと桜色。
 可愛い。
 可愛い小梅。
「……ねえ、起きてよ。……起きないと…………」
 うん、わかってる。
 だけど瞼が重いんだ。
 すぐ起きるから……あと、ほんのちょっとだけ……

「ちゅうしちゃうぞ!」

 思わぬ台詞に、重かったはずの瞼がパチリと開く。
「え!? 小梅? 今、何て……って! うわっ!!」
 大きく跳ねた鼓動に覚醒した千歳は、視界に映ったものを認識した瞬間に、反射的に大きく身を仰け反らせた。
 一気に身体を起こして後ろに下がろうとしたため机の脚に強かに膝を打ち付けてしまい、
「……たた。いたたっ」
 思わず苦痛にうめく。
「ははっ!! 何やってんだ!!」

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